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その夜、何の連絡も入れずに俺は仁科先輩の住むマンションを訪れた。
がちゃり、と開いたドアから姿を現した仁科先輩は、俺の姿を見て、一瞬固まった。
「也・・・・・・どした、急に」
「すみません、連絡もしないで」
「いいけどよ。まあ入れや」
仁科先輩は襟の大きく開いた長袖のTシャツとグレーのスウェットを着ていた。グレープフルーツみたいなシャンプーの香りがする。前に泊まらせてもらった時は気づかなかった。
「なんか飲む?」
「あ、えーと、何でも・・・」
「ビール、ウイスキー、お茶・・・」
「じゃあビールいただきます」
OK、と言って先輩は冷蔵庫からビールを2本取り出した。
ワンフロアの部屋の真ん中、テーブルの上には既に3本のビールの空き缶が並んでいる。
「俺もう4本目~」
先輩は、にっ、と笑ってビールを開けた。いただきます、と言って俺もよく冷えたビールを喉に流し込んだ。
「で?どしたん、今日は」
先輩とは、父親の病気の話をした後、会っていなかった。その間に俺たちのことを両親が知ってることがわかり、気持ちが落ち着くまでに少し時間がかかった。
が、今日、来たのは。
「えっと・・・特に、用事はなくて」
「へ?」
「・・・会いたくなって、来ました」
「あらま」
仁科先輩はおかしそうにもうひとくちビールを煽った。多分本気にしていない。
俺は隣に座る先輩に近づいた。まだ新品のソファが、ぎしっと鳴った。
「お?」
「今日・・・泊まっていってもいいですか」
ふふっと笑って、先輩は俺の唇にキスをした。堪えていたものが、一気に流れ出して、俺は舌を割り込ませた。
「ん・・・・・・っ」
今夜ここに来たのは、ただ先輩と一緒にいたかったから。
先輩が欲しかったから。
「なんだよ、めずらしーな・・・・・・ヤる気で来た?」
「来ましたよ・・・・・・だめですか」
「そんなわけねーでしょ」
先輩の手が俺のジャケットを脱がす。ネクタイの結び目に指を差し込み、器用に緩める。
俺は先輩のTシャツの中に手を入れた。肌に直接触れて、抱きしめる。
首筋にキスをすると、先輩の腕も俺の身体に巻き付いてくる。あっという間にふたりとも上半身は裸になり、俺は先輩の上にいた。
「・・・也?」
「はい?」
「なんか、あったか」
「・・・え?」
「変な顔、してんぞ」
「・・・何もないですよ・・・それよりベッドに移動しません?」
ワンルームのソファからベッドまでは、5歩で届く。そんな短い距離をぐだぐだしながら、もつれあいながら移動した。
すでに二人とも苦しいくらいに勃っていて、俺はまず先輩のスウェットを脱がせた。今日は黙ってボクサーパンツを引き下ろした。
そして自分でも恥ずかしくなるほどの勢いで、先輩のそこにむしゃぶりついた。
「あ・・・っぁ・・んっ・・・・・・」
先輩のいつもより高いかすれた声が、俺は好きだった。びくん、と震える先輩の中心が愛おしくて、無心に舐め続けた。
「・・・・・也ぃ・・・っ・・・んぁ・・・」
甘い声をずっと聞いていたかった。が、先輩が俺の頭をぐっと押し返した。
「も・・・やばいって・・・イっちゃうって・・・」
「・・・イっていいですよ」
「やだって・・・・・・」
「どうしてほしいですか」
「・・・・・・殴るぞ」
「こんな時くらい・・・主導権握らせてくれてもいいじゃないですか」
「仕方ねえな・・・・・っぁ・・・は・・・」
「先輩のしてほしいようにしますから」
先輩は顔を横に向けたまま、何も言わない。やっぱり無理か、と諦めかけたとき、とんでもなく切ない声が聞こえた。
「・・・・・お前のじゃねえと・・・もう・・・おさまりつかねえんだよ・・・っ」
「先輩っ・・・」
「早く・・・挿れろ・・・って・・・」
熱い息を吐き出す先輩は色っぽくて、可愛くて、俺は白濁の液が溢れ出している先輩の中心を握って、後ろの入口に自分のいきり立った性器ををあてがった。
「先輩・・・・・・俺も・・・・・っ」
「あぁ・・・っ・・・ん・・・っ」
「あなたじゃないと・・・っだめだ・・・」
柔らかい肉を割って、先輩の中に入っていく。締め付けられながら甘く絡みつく内側。ゆっくり奥まで到達すると、先輩がひときわ切ない声で喘ぐ。
「・・・ふ・・・あっ・・・」
「気持ちい・・・ですか・・・」
「ぁあ・・・・・・んぅっ・・・・・・」
「先輩・・・自分で前・・・触って」
朦朧としている先輩は俺に言われるがまま、自分で前を扱きはじめる。
その卑猥な光景にさらに興奮してしまう。
俺のグラインドのリズムに合わせて、先輩が短く声を上げる。目を閉じて、口を半開きにして、天を仰いで。
「先輩の中・・・熱くて・・・狭・・・」
「あっ・・・んっ・・・ぁあ・・・なりぃ・・・」
ワンルームでベッドがリズミカルに軋む音と、肉と水分が織りなす淫靡な音が重なり合う。そして眼下に広がる光景が、さらに俺を昴ぶらせる。先輩の片足を自分の肩に乗せて、膝の裏に口づける。その感触に、ぴく、と先輩が反応する。
そのまま先輩の身体を横向きにさせて、後ろから激しく突き上げる。
「うあぁっ・・・ん・・・っああっ・・・」
先輩はシーツを強く掴んでひときわ高い声を上げた。
誰が想像するだろう。女性が放っておかない、男臭いフェロモンを放つ仁科先輩が、男に抱かれてこんな悩ましい表情で喘ぐなんて。
俺しか知らない、この人の本当の姿。
誰にも渡したくない。
俺だけの先輩。
「也ぃ・・・っ・・・もう・・・・イく・・・・っ」
「おれも・・・ですっ・・・・・」
「っぁぁあああっ」
先輩は大きく身体を仰け反らせて、放った。